日が沈んだころ、私は我が子を抱いて散歩に出かけた。



 アスファルトから昇る熱気は、いくらか抑えられてはいたが、蒸し暑さはあった。



 空は暗くなりかかっていて、うっすらと星が見えた。



 そんな星を見上げながら歩く。



――もういい加減に決心しなさい、か……。



 我が子は生後六ヶ月を過ぎている。


 名前だって決めてある。



 でも、父親はいない……



 お父さんに言われなくても分かっていたんだ……



 今の私じゃ、この子を幸せに育ててあげることなんて、できないことを……



――わらびーもち、かきごおりー



 前から走ってきた軽トラックから聞こえた録音テープの声で、我が子が目を覚ました。


 泣き出すかと思っていたら、小さな手を伸ばして言葉じゃない声で話していた。



「なに?かき氷屋さん、気に入った?」



 私は片手で我が子を抱きかかえながら財布をポケットから出して、中を覗いた。


 五百円玉が一つと、残りは十円玉や一円玉がジャラジャラとあるだけだ。


 私はその中から、五百円玉を取り出した。



「あの、かき氷一つ下さい」


「あいよ!ねぇちゃん、何味だい?」


「いえ、シロップなしで」



 首を傾げるかき氷屋のおじさんに五百円玉を渡し、お釣りとシロップなしのかき氷を受け取った。



 河川敷にあるベンチに座り、かき氷のてっぺんを手でつまみ、手を伸ばして待つ我が子に食べさせた。


 かき氷が口の中に入ると満面の笑みをうかべ、手を伸ばし、もっと欲しがった。



「おいしい?でも、お腹こわすといけないからね」



 幸せそうに笑う顔を見て、このままでも幸せになれるような気がした。



 ほとんど残った何も味がついていないかき氷を口に入れた。


 味のないかき氷はただ冷たいだけで、暑さを解消させてくれるだけだった。



でも、私に冷静な判断をさせるのには十分だった。



 私は立ち上がり、家に向かって歩き出した。





――もう決心はついた。