「お礼を言いなさい」と言われたのだろうか、男の子は私のところへ走ってきた。



 いちご味のかき氷を持って。



「おねぇちゃん、ありがとう!」



「いいえ、お腹こわさないでね」



 私は首からぶら下げたタオルで汗を拭うように、涙を拭いた。



「あなたー、帰るわよ」



 少し先で母親が父親を呼ぶ。



「それでは、失礼します」



 父親は私に一礼し、男の子に向かって言った。



 私の聞き間違いなんかじゃなくて、確かに。





「健太!お母さんの所まで競争だ」





 私は溢れる涙を拭うこともせず、真っ赤な夕日に向かって手を繋いで歩く三人の親子を見送り続けた。





 心の中で「ありがとう」と呟きながら。



2008.07.03
発案・執筆開始
2008.07.10完結