週が明けてからの月曜日。

 事務所の扉を開ける瞬間、私の心臓は口から飛び出そうだった。

 懸命に何食わぬ顔を装って、扉を開ける。

 こんなに動揺するなんて、私に不倫なんて、向いていないんだろうな。

 まだ不倫という関係にすらなっていないのに、そんなことを思ってしまう。

 不倫するってことは、きっと、こういう日常の積み重ねと闘うことなんだろうな・・・。

「おはようございます。」

 美香さんと窪田さんがすでに出社していた。

 もちろん、課長も。

「おはよう。」

「おはよー。」

「おはよう。」

 三人から、いつもどおりの挨拶が帰ってくる。

 課長の顔は、見れない。

 窪田さんが、じっと私の顔を見ていたような気がしたが、目を反らしていた。

窪田さんには、すべてを白状してしまいそうだから。

「金曜日、お疲れ様。

 大変だったねー!

 結局、泊まりになっちゃったんだって?!

 大丈夫かなって皆で言ってたんだよー?」

 美香さんに、探りをいれられているような気がするのは、自分の中に、やましいことがあるからだと思う。

「そうなんです。

 ほんと、台風だなんて、ついてなかったですよ。」

 長く喋ると、ぼろが出てしまいそうで、そっけなく答えた。

「ホテル、ちゃんととれましたか?

 テレビで見てたら、ちょうど仙台駅がうつって、人でごったがえしてましたね。」

 窪田さんが、課長に向かって言う。

「ああ、大丈夫だったよ。

 さすがに混んでたから何軒かあたったけど、野宿はせずにすんだよ。

な、河本さん。」

 課長が、なんでもないように私に言う。

「ほんと、課長のおかげで助かりました。」

 私はそう答えて笑顔を作った。

 こんなふうに平和に会話していると、本当に私たちの間には何もなかったかのように思えてくる。

 言葉というのは、不思議なものだ。

 よく、不倫の関係を、共犯、なんて表現する人がいるけれど、まさに今、課長と私は共犯者だった。