潰れたリップクリーム。



あの時もこんな感じだった。



3年2組の教室で2人っきりの放課後。


話があると呼び出された瞬間、予感はしていた。




『南、ごめん。受験に集中したいから別れよう』



一言目で言われた別れの言葉。



『俺から告白しておいてこんなこと言うのは本当申し訳ないと思ってる。

でも、1つ下の凜と一緒にいるのが辛い』




苦しそうに言う巧先輩を見て涙が流れた。



『そんな…仕方ないでしょ。

だってあたしはまだ受験とか分からないし、気持も分かってあげられない』


『だから辛いんだよ…受験っていう縛りがない凜を見てるのが辛い』


『そんな……』


『悪い…』



そんな受験のせいで1年の交際なんて簡単に終わらされるなんて…。



『分かった』


『…ごめん』


『受験頑張ってね』



そう口では言ったが、ポケットに入れていたリップクリームを巧先輩の顔面に投げた。



『バイバイっ』


2ヶ月経ったのにあの時のことは鮮明に思い出せる。



「受験、やっぱり大変そうだね」


「うん…でもセンターも多分大丈夫って言えるほど実力は上がったよ」


あたしと別れた後、塾に通い出してみるみる実力が上がったと長谷部から聞いた。



あたしと別れたのが本当に正しかったと言われた様に感じた。