俺はついこの間そんな経験をしたばかりだ。


原因は彼女の心変わりだ、ということにしておく。



 あの夏の夜、花火を見に行った帰りの車の中でのことだった。



 以前付き合っていた男が、どうしても忘れられないと言って俺の前で泣いたっけ。


 思えばあれはとても辛い体験だった。

 
 その男というのが、俺の知り合いだった。


 元の職場の後輩で、よく飲みにもいっていた仲だった。


 彼女と付き合いだしたのは、彼女から申し込んできたから。


まだ春というには寒い頃だった。


街がバレンタインデーの赤やベージュに染まったころ。


後輩や皆で飲みに行った帰りだったと思う。

帰る方向が一緒だったので彼女を送って行った。


その頃彼女と後輩は付き合ってかなり長く、倦怠期だった。


いつも彼女から二人の相談を聞かされていた。




 素敵な女の子だった。特に断る理由もなかった。
 

 それなりに上手くやっていた数か月だった。



 その日も俺は案外と楽しかった。


花火が終わり、彼女を車で家に送り届けようとしていた。


 家に着き、別れにキスをしようとした。


何時もそうしていたから。


 シートベルトを外し、彼女に近づいた。


すると突然彼女が目に涙を浮かべて泣き出したのだった。


あっけにとられる俺。

  
 泣きじゃくりながら彼に会いたくて俺と付き合ったと、聞いたときにはどうして良いか


見当もつかなかった。


 その日も楽しそうに一緒に花火を見ていた。


 俺は少なくともそう思っていた。

 
 なんだよそれ、そう彼女に問い詰めることは簡単だ。



だけどそこまで聞いて、実はああやっぱりね。と、妙に納得してしまった自分もいたのだ。


大体おかしなこと、付き合っていたときから多かったから。


やたらその友人を飲みに誘おうと言ったり、そいつと飲みに行くと話したりすると


必死でついていこうとしたり。


 その時はふざけるなと思ったけど、今思うとそれぐらい彼女はあいつのことが


好きだったんだなと、冷静に思える。


 そう思えるのは未羽さんのおかげだ。


 今の俺にはその気持ちよくわかるのだ。