洗面台の前で、自分の顔を見る。
眉間に皺が寄っていて、どこからどう見ても普段通りじゃない。

慣れる。きっと。

だから、大丈夫。


昨日、きっと誰かが徘徊したのだろう。
顔を丁寧に洗うと、髪の毛をとかす。


それから、自分の頬を両手でぱんっと叩いた。


「負けない」


そう、口にする。
心の中で思うだけじゃなく、言葉に出したかった。


顔をタオルで拭いてから、再度、リビングに入る。
さっきまでの私はもういない。
動揺してる私もいない。

…これはあやめ。
私はあやめ。

何も、知らない。
覚えていない。


…あの人は、私のお義父さん。
あっちは私のお母さん。


何も、変わらない日常。


「いただきます」


朝ご飯を食べて、何気ない会話を交わす。
大丈夫。


「今日は母さん、遅くなるから。
お父さんとご飯食べてね」

「……わかった」


さっき、強く言葉にしたばかりなのに。
ドクンと心臓が鳴った。

胸騒ぎが止まらない。


どうしたらいいのか、わからない。


私と、お義父さんの二人きり?