「…ありがとう」


そう、一言呟くと私はテレビに目をやる。
気丈に振る舞わないと。

そうしないと…きっと殺樹に喰われる。


私の心まで浸食されて、私が私でなくなってしまいそうだ。


特に面白いテレビもない。
自分の部屋に戻ると、机へと向かう。
それから椅子にどしんと腰を落とした。


昨日今日で、ガラリと私の環境が変わってしまった。
恐ろしいぐらいに。

ふと、自分の手の甲を見つめる。
確かに誰かを殴ったであろう、この手。
その記憶なんかない。

でも、私を助けてくれたって言う事はカンナがあいつらに何かをしたって事だ。

それが暴力だってのは安易に想像がつく。


自分の手がここまでなるほど…誰かを殴るだなんて。
考えた事もないし、しようと思った事もない。
ただ、怖い。

また、私がこんな風になってしまうのではないかと。

ただただ怖い。


カンナがしでかした事って頭でわかっていても、傍から見たら“私”なんだ。

震えた手で私は自分の手を覆うと、強く握り締める。