多重人格者【完結】


「…あやめ」


私の腕が回った事を確認した心君は、更に抱き締める腕を強めた。
苦しいのに、これが嬉しくって。


私は心君の制服が皺になるほど掴んで、静かに震えた。


「俺が…お前を守る」


その言葉に自分の耳を疑った。

本気?
守る?


心君の顔は見えない。
どんな表情なのか。


私ですら、カンナの存在も、殺樹の存在もよくわかっていないのに。
どうやったら守れるの?


だけど…私の事守ってくれるの?
そう、思ってくれるの?


「あやめ、俺を許すな」


背中に回っていた手を滑らせ、髪の毛へと移動させながら心君はそう言った。
意味が分からず、私は黙ったまま心君の次の言葉を待つ。


「…俺はあやめに酷い事をした。
だからといって、それの償いとかじゃない。
俺があやめを守りたいと思った。
カンナの魔の手から」

「………カンナは」


カンナは。
私の所為でこの世に生まれた。
だから、悪いのは私なんだ。


全て都合良く忘れていた私の所為。