多重人格者【完結】

≪あやめは悪くない≫


殺樹は私の元へ近寄ると、スッと手を伸ばし私の頬に触れる。
その手が余りにも冷たくて、思わず体がビクっとなった。


少し身構えながら、私は殺樹を見る。
殺樹は先程と表情を変えずに私を見つめていた。


≪俺が怖いか≫

「………」


冷たい手が私の体温も下げている様な気がして、体がうまく動かない。
そして、殺樹から視線も外せない。


≪出たくないなら…俺が出てやってもいい≫

「え」

≪どうだ、出たい時に俺と代わるのは≫

「………」

≪くく、だけどあやめ、今はお前の出る番だ≫


一笑した後、殺樹は私に出る様促す。
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。


≪さあ…≫



その、大きくて無駄な肉のない手を私に差し出す。

恐る恐る…私は自分の手を殺樹の手へと伸ばした。
微かに触れた瞬間。

殺樹の不気味に笑う顔が見えて、私の意識は一瞬で遠退いた。


あ。
戻る。


直感的に、そう感じた。