「あ、あやめ!!どうしたの!?」

バタンと、扉が開くと中に入って来たのは“アタシ”の母親だった。

「あ、お母さん」

慌てる母親に、アタシは笑顔を作って対応する。
それに、母親は拍子抜けしながら続けた。

「あんた、何があったの!?」

「夢でうなされちゃって…もう、平気」

「何それ、あやめ、声かなりでかかったわよ」

「はは、気を付けないとだな」

「もう!遅刻するわよ。早く降りてらっしゃい」

「はーい」


母親は溜息をつきながら、部屋を出て行く。
階段を降りる音を聞きながら、アタシはその顔から笑みを消した。


…はは、何だ、アタシ結構“あやめ”出来るじゃん。

そりゃそうだ、アタシはあやめなのだから。
中身が違くても、外面はあやめなのだから。


誰も、きっと、アタシがカンナだと気付かない。
…あの男以外は。

アタシはハンガーにかけられた制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出す。
その手帳の一番後ろに挟まれた写真。


眩しい笑顔を見せる草野心。