皆が口々に、あの一之瀬が、大人しそうだったのに、別人だったよね、等と勝手な事を言っていた。
当たり前じゃねえか。

あれはあやめじゃないんだ。

別人なんだよ。


あやめは優しくて、弱いクセに強がって、誰よりも自分を責める子なんだよ。


何も知らないのに、勝手な事言ってるんじゃねえよ。


先生が慌てて出て行った後、また噂話に花を咲かせるクラスメイト。
俺はガタッと音をたてて立ち上がった。


一気に静まり返る教室。
一度、全体を睨みつけてから俺はカバンを持つと教室から出て行った。


ふざけんな。助けようとも、止めようともしなかったクセに。
口だけ達者なんだ。

見て見ぬふり、我関せず。


……ああ、くそ。今までの俺もそうだった。


だから、何も言えないんだよ。
それがまた悔しさを助長する。


さっきから爪が白くなるまで拳を握り締めてる所為で、くっきりと爪の痕が手の平に刻まれていた。