多重人格者【完結】



「はいよ。俺も風呂入ったら寝るし。
あ、俺は寝室に布団敷くから。安心して」


何も言わずとも、心君は私の思ってる事を話してくれる。

それがとても有難い。


奈乃香さんと入れ替わりに、風呂に入った心君。
奈乃香さんが髪の毛を乾かしてる間、私はそっと布団に潜り込む。


それから、一度息をつき目を閉じる。
目の前が暗闇に支配された。


その瞬間、脳内を過ぎるのはあの場面。




“…可愛い、あやめ”


あたかも、耳元で囁かれている様に思い出すその声。
ぶるっと身体が震えた。

自分の身体を抱え込む様に、私は腕をぎゅっと抱き締める。



“あやめ。あやめ。ああ、好きだよ、あやめ”


こんな、事。


さっき言われていない。


……私の失った記憶の欠片?



“ああ。可愛い俺の、あやめ”


ガクガクと、さっきよりも強く私の身体は震えた。


まだ、思い出してない事がある。
それが、怖い。