多重人格者【完結】


「ちょっと、待ってな」


座ってから、私は膝を抱える。
カタカタと体がまだ震えていた。


触られた箇所が、汚く感じる。今すぐ忘れたい。
洗いたい。怖い。


「…はい」


そう言って、差し出してくれたのは数時間前と同じ缶ジュース。


「どの飲み物がいいかわかんなかったから、さっきと同じでごめん」

「……」


私はふるふると首を振って、それを受け取る。
正直、喉はカラカラだ。

財布なんて持ってないし、本当に助かった。


だけど、手が震えてプルタブが開けられない。

そんな私の様子を見て、さっと缶を私の手から取ると草野君は開けてくれる。


「あ…りがと」


お礼を言って、私はゴクゴクと飲んだ。
喉が潤って、やっと呼吸が出来た様な気がした。


「少し落ち着いた?」


そんな声が頭上から降ってきて、私は草野君の顔を見る。
優しい顔で微笑む草野君。


「隣、座っても平気?」

「……」


コクンと一度頷くと、草野君は私から少し離れた場所に座った。
草野君の気遣いに、心がじわじわと温まって行く。