「…あやめ?」


その声にハッとして、上を向くとその人は草野君だった。


…どうして、こんな場所にいるの?


驚きと戸惑いとで、私は瞬きするのも忘れて彼を見つめた。


「…何て、顔してんだよ。何があったんだ」


私のただならない様子を見て、草野君が訝しげな顔をする。


「靴も履いてねえじゃん」


そう言われて、やっと気付く。
自分が裸足だって事に。

逃げる事に夢中で、靴なんて履く暇なかったから。


俯く私を見て、草野君は何を思ったのか、急に私をお姫様だっこし始めた。
それに驚く私。


「…えっ!?」

「その足じゃ歩くの危ないだろ。俺ん家に連れてきたいけど…、嫌だろ?
公園まで我慢して」

「やだ、降りる」

「無理」


離すつもりはないらしい。
草野君は私を抱えたまま、公園まで走ってくれた。

私が焦って走ってたのを見て、そうしてくれたのかもしれない。


とにかく、あの家から速く離れたかったから私としては有難い。


公園に到着すると、ベンチに優しく下ろしてくれる。