『それ』はその地面を一瞥すると、ブーツと同じ漆黒の外套を翻し闇夜へ舞い上がった。
そして立ち並ぶ家の屋根やビルの屋上などを足場として音一つ立てることなく跳ねるように駆けていく。
まるで闇の中を悠然と駆け回る気高き猫のように。

『次の目標現在地から274.3m北北西・・・253.4m北北西に移動実体化して這いずり回っている様子ランクD』

蝙蝠から聞こえる多種多様な生き物の声が混ざり合ったかのような声。
『それ』とはうってかわって掠れた醜い音だ。
句読点をつける場所は判別しがたい。

「分かった」

タンッ、と軽やかな音を響かせ今までより高く舞い上がる。
真紅の頭髪が風になびいた。