《1》


ジジッジジッ、と点滅を繰り返す粗末な街灯に照らされた薄暗い路地。
その地面から泉のように湧き上がるどす黒い液体を見下ろし、『それ』は表情を変えぬままに踏み潰した。
闇夜に紛れる漆黒のブーツの踵で何度も、何度も。

「ターゲット破壊完了。捕縛に移れ」

『それ』が発したと思われる鈴のように透き通る声。
その声は静寂に包まれた空間に響き渡るでもなく消えていった。
声に答えるかのように街灯の下に姿を現した蝙蝠。
羽音を一切立てることなく『それ』に踏み潰され苦しげに蠢く『何か』に近づく。
途端、蝙蝠の翼がもとの何倍にも広がり蝙蝠と『何か』を覆い尽くした。

時折翼だった物体が蠢き、微かな音が聞こえてくる。
だが、すぐに覆いが剥がれもとの大きさへと戻った。
そこに先程の黒い物体の姿は無く、もとどおりの地面が街灯に照らされていた。