拳がお腹にめり込む鈍い音、盛大に咽た慶ちゃん先輩。
内心で「ドンマイ」と思った。
恭也くん、滅多に怒らないのにね。
本気パンチしちゃうくらいの余計なことを、慶ちゃん先輩がまた言ったんだろうな。
自業自得だけど、膝に手をついて苦しそうに咳をするから、少し同情。
背中を擦ってあげようと手を伸ばせば、そこに触れる前に手を取られた。
……恭也くんに。
「寒いし帰る」
低いトーンで言い放った恭也くんに、手首を引かれる。
「ちょっ、慶ちゃん先輩はっ?」
「ほっとけ」
大きな広い背中の恭也くん。
そこから感情は読み取れない。
振り返って慶ちゃん先輩の方を見れば、シタリ顔。
おまけに、『ガ・ン・バ・レ』なんて口パクで言われた。
訳が分からないまま、「また会おうねー!」と声を張り上げれば、吹き出すような笑い声が聞こえた。



