僕は少し空気の抜けかけた浮き輪に息を吹き込み少し張らせた。

そしてそれを海へと放った。

浮き輪はクルクルと回転しながら放物線を描き水面に落ちた。

暫くゆらゆらと波に揺られながら、引潮に引かれ沖へ沖へと流れていった。

やがて浮き輪が見えなくなる程遠くまで流された頃に朝日が水平線に顔を出した。



僕の顔は朝日に照らされ、潮騒は優しく響き、海風は僕の頬を撫でる。



憎しみも、悲しみも、憂いも、喜びも何もかも全てを優しく包み込み、沖へと消し去ってしまう引潮は僕の心を洗ってくれる。