奥からは蓮貴の母親までもが飛び出して、全員が稽古場に向かっているようだった。
僕は邪魔にならないように見守りながら、そのうちの馴染み深い一人を呼び止める。
「玄さん!」
名前を呼ばれた親切な老婆は、ピタリと止まると辺りを見回し―
「ここです。」
声の主の僕を見て、合点のいった顔をした。
僕は屋根の下から出て、上がる事無く、廊下で止まっている玄を見上げる。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
訊ねると、玄は何度も頷いた。
ベテランである彼女ですら、やや焦っているように思えた。
「温度師が―お亡くなりになられたんです。」
一瞬、僕の頭は完全に動きを止めた。
「蓮貴様の任命式が行われるのです。」
何も言わない僕に、玄は小さくお辞儀をすると、他の者の行った方角へと小走りに向かった。


