少し剥れた顔をして翠はじっと二人を見つめて、おずおずと口を開く。
「その…おねえさん…は、翠の部屋で寝てもらいたいんです…けど…」
段々と小さくなっていく声に、それまで黙って見ていた父親の玖李が呆れたように溜め息を吐いた。
「翠、いい加減にしなさい。尭さんも翠の所にいたんじゃ、疲れがとれないだろう?」
玖李の言葉に、翠は悲しげにまた俯いた。
「あ、私なら構いませんよ…むしろ」
その方が良い、と尭が言いかけた所で、
「やったー!!!決まりですねっ!!」
翠が飛び跳ねて喜んだ。
「こらっ」
碧が困ったように叱るも、意味を成さない。
「…却ってご迷惑をお掛けして申し訳ないです。何分、一人っ子なものですから―」
玖李が恐縮して謝るので、尭は慌てて首を振った。
「わかります。私も―」
途中ではっとする。尭にも兄妹はいなかったが、ここでは記憶がないことになっている。
「…今、一人ぼっちな気分で、とても寂しいので。」
気の良い夫婦は疑う様子もなく、同情するような面持ちで頷いた。
「早く、記憶が戻ると良いですね。」


