絶対零度の鍵

「温度師には禁忌がある。誰かを愛することは世界の均衡を揺るがす。」




蓮貴の声は、とても小さくて低く、聞き取るのがやっとだったけれど。




「俺には、友はお前だけだ。そして、星だから、願いたい。翠を幸せにして欲しい。」




闇夜を照らす、月明かり。


僕と蓮貴はその場に立ち止まったまま、どちらも動かない。




何か。


方法はないんだろうか。



僕の頭の中に、翠の切なげな横顔が浮かぶ。



それから、視線を自分の手に落とす。




自分に、何が出来ると言うんだろう。



自分が誰かも分からず、何の力も持たないのに。




「一緒になる、ってことが、もし難しいのなら、見守るだけでもいいから。」



返事すらできない僕に、蓮貴が懇願するように言う。




「そうして、この花を僕の元に送ってくれないか?」




蓮貴の胸に挿された白い花が、月光を浴びてキラキラと輝いた。