絶対零度の鍵

「…でも、思い出せなかったら、嫌だな…」



頭の中に蜘蛛の巣のように張りめぐらされている靄が薄気味悪い。




「記憶など、無くても生きていける。」




僕を見る事無く、蓮貴が呟いた。



「…そんなもんでしょうか。」



本当に大したことなさそうに言うものだから、僕はなんだか気が楽になった気がした。



だが、青白い光に照らされた蓮貴の表情は暗い。




「下手に記憶なんかがあるから、色々と面倒なのだ。」




「…?それって、どんな―」



訊き掛けた所で、蓮貴がぱっと僕を見て、立ち上がる。




「さ、身体を冷やすと良くないぞ。もう、寝ろ。朝になったら、食事を出すよう伝えておくから。」




「あ、はい。…おやすみなさい。」



音も無く、廊下を歩いていく蓮貴の背中を見つめながら、今のは訊かれたくないことだったのかな、と、ひとり反省した。