絶対零度の鍵




「うーん。そうか。しかし、困ったな。リストには載っていたからな。しかもかなり重要な本だそうで。もし、見かけたら私の家まで報せてくだされ。」


そわそわしながら、書士は立ち上がる。

翠の家を訪問した時からずっと、書士は落ち着かない様子だった。


「その本ってなくなったら大変なものなんですか?」


母親が、書士の上着を掛けてやりながら訊ねると、書士は大きく頷いた。


「…私や、奥さんや、娘さん、、ほとんどの人間には害もないし、関係もない。ただ、温度師の手に渡ると困ったことになる。そういう本らしいです。持ち出し禁止の温度師禁止。この村に伝わる呪われた本ですな。どこの誰が書いた本なのかも不明だし、何度焼き捨てようとしてもいつの間にか元の場所に戻ってきてしまうそうですよ。かくいう私も、実際に目を通したことがないのだが。」



ふーむ、考え込むように書士は顎を掴む。



「まぁ、ずっと忘れ去られていて。こないだの整理で私も気づいたようなものなので。では。」



書士は軽く会釈をして、座敷から出て行った。



「全く、いい迷惑だ」



書士を見送ると父親が、やれやれと言う様に、肩を竦めて見せる。



「本当ね。私、ちょっと畑に行ってきますね」



母親も忙しそうにパタパタと走っていってしまった。