「えっと…じゃ、ここ、置いとくね?またね!」
手提げを蓮貴の傍にドサリと下ろし、翠は足早にその場を去った。
少しの間、水面を見つめ続けてから、小さくなった彼女の後ろ姿を探した。
それから、傍に置かれた袋に目をやる。
「…重いのに。馬鹿だな、アイツ。」
中に見える本の数の多さに、翠の健気な様子が伺えて、辛くなる。
蓮貴は、ここで毎日ぼんやりと水面を見つめ、心を無にすることが、日課になっている。
能力がある余り、自分にはやることがなくなってしまったから。
家でも、村でも、自分と同い年の者はせっせと働いているのに。
一族から特別扱いされている自分は、稽古以外は何もしなくていいことになっていた。
その稽古さえ、とうの昔になくなってしまった。


