絶対零度の鍵

僕は合わない視線から逃げるように、無言でその場を立ち去り、更衣室で着替えた。

水に浸った身体はすぐに真夏の暑さに支配される。


「あちー」


ワイシャツに着替え、ズボンを膝までたくしあげた。

プールサイドに戻ると右京の様子は普段通りになっていて、水面を覗き込んでいた。


「珍しいの?」


好奇心旺盛な子供のように、キラキラとした顔で見入っているもんだから、ついつい訊ねる。


「水が凍っていないのがこんなに沢山貯まっているのは珍しい!井戸でもなくて、湖でもない。」


ほんと、この子のことが、僕にはよくわからない。


「ははっ」


わからないけど、なんだか可笑しくなって、僕は笑ってしまった。


そんな僕のことを、振り返った右京は驚いたように見つめた。


「クミがそんなふうに笑う所、はじめてみた。クミはいっつも、ここに皺をよせてムッとしてるから」


そう言うと自分の眉間を指差した。


言われて気づく。

確かにそうかもしれない。

楽しいことなんて、そうそう転がってないからね。


だけど、最近ちょっと考える暇もない位、なんだか振り回されてる気がする。

それがそんなに嫌じゃないことに、自分でも驚いている。