柏木の強い眼差しは、こんな女を全面に押し出してしまっている私を…

見抜いているんだろう。
ふっと小さく笑って、

「鮎川も一緒に行くか」
なんて、飄々と冗談か本気かもわからない台詞を放つ。

ジェットコースターが急上昇。
いつ落とされるのか…トカトカと鼓動が脈を打って、スリルが同居するような緊張感。

柏木は、きっとその間合いを図るのが…とても上手い策士でもあるから。

この舵を何とか奪い返さなくちゃあ、落差に目眩を起こしてしまうかも…しれない。

こうなったら逆手を取って、
どうせなら冗談を上乗せして、

おどけた漫才にでもすれば…私の気持ちになど、誰も気づかない。

「…いいですよ。たまにのデートもいいですね~!2ケツしちゃいます?いやあ、青春~憧れてたなあ」

「青い春じゃなくって真っ白な冬だけどな。ついでに道路交通法違反」

くそう、正論ぶつけて来たか。

「で?どうする。行くの、行かないの?」

「………」

選択を委ねられても、正しい判断がどうかだなんて…判らない。

「アイツは、行ったのに?」


゛あいつ…?゛
思い描く人物を探し、視線だけを左右させて。

そこで、あの人がいよいよ自分の意思で動き出したのだと…知った。

迫田くんは今…覚悟を持って、この事件と、自分自身の戦いの場へと挑んでいる。

なら、私は…?
私は今、どうしたい?

一緒に居たいから、だとか、そんな生温い考えは…柏木の中に、今微塵もないのだろう。

違う、そうじゃないって。明らかに…訴えている。

一線を引かれた?いいや、そういう訳でもない。

正義とは…なんぞや?
従順にただ、間違わないように…真っ直ぐに歩くことか?

正義が正しいのか?


そうじゃない。
そうじゃあ、ない。

己に従順で…信じた道を突き進む。
己を貫き、乗り越えてこそ見えてくるものでは…ないのか?

まだまだひよっこ警察官の私にゃあ、分かりなど…しないもんだ。


ここでデスクワークがしたくないって訳でもないけど。
柏木が進む゛己の道゛と、私が選ぶ道とがどこかで交わるのかもしれない。

来い、と言うならば…きっと。
背中合わせでいた私達が同じ方向を見て、同じ物を見て、解決の糸口が…見つかるっていう確信が

アンタ中に、あるのかもしれない。