モオキハが、爆走を止めた。砂をかぶった全身は、おおよそ緑褐色。でも、喉元から胸にかけて、毒々しい鮮やかなピンク色。赤く裂けた口から、尖った長い舌と凶悪そうな牙がのぞいた。
「ハーフミニッツで決められるって、本当でしょうね?」
 アタシの言葉に、ニコルがうなずいた。
「ボクが保証する。援護するから、シャリンとラフは大暴れして」
「アタシは速いわよ。ついてきてよね」
 ラフが双剣を打ち合わせた。
「疑ってくれるなよ。オレたちだって、だてにハイエストやってるわけじゃねえよ」
「ふぅん。そう」
「なあ、お姫さま。ハーフミニッツは当然として、クォーターミニッツでやれたらさ、ご褒美にキスしてくれる?」
「はぁ? なに言ってんのよ、バカ!」
「つれないねぇ。まあ、いいや。とりあえず、一発目からコンボ狙おうぜ」
「BPM300の鬼譜面、いける?」
「出せる出せる。敏捷性はお姫さまのほうが高いから、一番槍は任せる」
「遅れずに入ってよね」
 バトル開始のカウントダウンが表示される。
 3・2・1・Fight!
 BPMとかっていうのは、ユーザとしての会話。シャリンとしてのアタシは、華麗に剣を構える。
 ニコルの全身がポゥッと光った。
「攻撃力強化、っと! じゃ、行ってらっしゃーい」
 アタシが、一番槍。行けっ、と叫ぶ。
“Wild Iris”
 七回連続の斬り技が炸裂する。
 次にラフが飛び出した。
“kick ass”
 縦回転しながら左右の大剣で斬りまくる。
 ニコルが、後ろのほうから魔力を飛ばす。
「敵さんの防御力ダウン! ……って、まだ硬いな。もう一回やっとくかな」
 アタシとラフで波状攻撃をかける。休みのない斬撃を受けてモオキハは動けない。
「案外やるわね」
 ラフの双剣は一撃一撃が重い。表示される技の名前は英語のスラング。ちょっと感心できない言葉ばっかりだけど。
「防御力、下がれー!」
 ニコルがガンガン補助魔法を使うたび、モオキハに与えるダメージがおもしろいほど大きくなる。
 ラフが笑った。
「すっげー! 息ピッタリじゃん! ここまでうまくハメれるって、すげーよ!」
 そう。ほんと。
「うん、気持ちいい!」
 ニコルが葉っぱのチャクラムを飛ばした。
「押して押してー! クォーターミニッツ切れるかもよ!」
 つまり、十五秒でこんな強敵を撃破できるってこと。爽快!
 ラフがモオキハに突進した。
「とどめだ!」
“stunna”
 ラフは横回転しながら左右の剣で攻撃した。モオキハが断末魔の悲鳴をあげて、光って消滅する。
 勝利のモーションで、ニコルがぴょんぴょん跳ねた。
「十三秒〇二って、すごいね! ほんとにクォーターミニッツ切ったよ!」
 バトル勝利に加えて、各種ボーナスが加算される。十五秒以内でのモンスター撃破のボーナス。それと、ノーミスクリアのボーナスがおいしい。
「アンタたち、相当やり込んでるの? BPM300の鬼譜面がジャマナカクトなんて」
 最高難度の技を平気で繰り出してた。アタシと息を合わせて、完璧なタイミングで。
 ラフが双剣を鞘に収めた。
「今回の技はショートコマンドばっかだったからね。これくらいなら余裕だよ。ま、オレは多少ミスっても、ニコルがカバーしてくれるし」
「このバトルでは、ボクの出番は少なかったけどね」
 でこぼこコンビって感じ。背が高くて細身で、顔に傷があって、ワイルド系のラフ。小柄で、子どもっぽくて、女の子みたいにかわいいニコル。
 二人とも強い。というか、二人セットだと強い。
 なんてね。やすやすと認めちゃうのは、しゃくだ。アタシがいちばん強いんだから。
 ラフが傷のある顔でアタシに笑いかけた。
「お姫さま、オレたち合格だろ?」
「まあ、そうね。合格にしてあげる」
「よっしゃ! このホヌアってステージの間、よろしく頼むぜ」
 差し出された手を、握る。
「繰り返すけど、アタシの足を引っ張らないでよ」
「了解了解。そうそう、それと、さっきの約束」
「約束?」
「ご褒美のキスはいつでも受け付けるよ」
「ぶっ飛ばされたい?」
 ニコルは、呑気ににこにこしている。