アタシは剣先でモンスターを示してみせた。大トカゲだ。地響きと土煙を立てて爆走してくる。
「バカでかいトカゲだな。南国系ステージらしく、爬虫類型モンスターがお出迎え役ってわけだ。ニコル、情報を」
「了解」
 ニコルはローブの袖から、ペンくらいのサイズの小枝を取り出した。ニコルが小枝をサッと一振りする。小枝は、ニコルの背丈よりも長い杖へと姿を変えた。
 杖のてっぺんに付いた緑色の珠が淡く光った。ニコルが何かの魔法スキルを発動させたらしい。魔力を帯びた風が、ニコルの小さな体から湧き起こっている。
「モオキハって名前のモンスターだ。バシリスクタイプではないから、石化魔法は使わないよ。炎の属性も毒の属性も検出されないし。ヒットポイントが高いだけの、ただの力押しキャラだ」
「透視? アンタ、妙な能力を持ってるのね」
「見たところ、おねえさんも力押しキャラ? 意外と攻撃力の数値が高いんだね。敏捷性がすごい。そんなに速くて、自分についていける?」
「当たり前でしょ。反応速度には自信があるの。透視や索敵みたいな補助系の魔法なんて必要ない。初めての敵でも、戦いながら属性を見破れるわ。アンタたちと一緒にしないで」
 ラフが両手に一本ずつ、大剣を構えた。
「頼もしいもんだ。で、お姫さまに相談があるんだけどさ」
「なによ?」
「このホヌアってステージをクリアするまで、オレたちのピアにならないか?」
 ピアっていうのは、つまり、ともに戦う仲間のこと。ピアという単語は、ゲームタイトルにも冠されている。

『PEERS' STORIES《ピアズ・ストーリーズ》』

 ソーシャルネットワークを利用した仲間《ピア》との協力プレーができる。それが、ピアズの特徴。
 でも、アタシは鼻を鳴らしてやった。
「ピア? 結局どんなメリットがあるのかしら? こっちの人数が増えれば敵も強くなるように設定されるんでしょ?」
「難易度上昇は事実。でも相対的に見て、協力プレーのボーナスのほうがおいしいぜ。つまり、三人でバトルをワンミニッツクリアした場合、一人で三分かけるよりも、経験値とゴールドが多く稼げるってこと」
 ニコルが口を挟んだ。
「あのトカゲはもっと楽だよ。ハーフミニッツを狙える。ボクたち三人なら、ね」
「協力ボーナスがお得かどうかは、アンタたちがアタシについてこられることが前提でしょ。アタシの足を引っ張らないって保証できるの?」
 手を結ばないのであれば、あの大トカゲは、先に手を下した側の獲物となる。遅れをとった側はバトルから弾き出される。
 ラフとニコルを威嚇してみせながら、アタシはすでに不利だ。ニコルはもうフィールド系魔法を発動させているから、それをバトル系に切り替えれば先手をとることができる。
「頼むよ、お姫さま。ピアになってよ。ひとまずこのバトルで様子を見てくれ」
「うるさい」
「協力して三十秒を切れなかったら、別行動してくれてかまわないからさ」
「ずいぶん自信がありそうね」
「もちろん。ほらほら、バトル開始まで時間がないぜ。どうする?」
 取り引きや駆け引きは苦手。言葉を返すのが面倒くさくなってきた。
「わかったわよ。とりあえず、アンタたちをアタシのピアと認めるわ」
 アタシは、初めてのその操作をする。

  name : SHA-LING(♀)
  class : highest
  peer : none

  Here come new peers.
  Will you accept them?
  ――YES

  Laugh-Maker became your peer!
  Nicol became your peer!

 これで、ラフとニコルはアタシのピアになった。
「サンキュ、お姫さま」
「シャリンよ」
「シャリン姫さまね。これで百人力だ」