此処は人間と鬼が住む世界。

人間といっても“魔法使い”や“幽霊”、“魔女”などと種族は様々だ。

鬼もまた、様々で、“妖怪”や“鬼神”などといる。

また、神族と呼ばれる者たちがいる。
その者は“天使”“悪魔”などの種族のことを指しており、希少種である。

細かく分かれていて、それがまた混在しているため、一昔前までの差別や偏見は皆無に等しい。
だが、鬼が人間を捕食したり、その逆もあったりと物騒な世の中ではある。

鬼の種族の中でも“吸血鬼”と呼ばれる種族がいる。

一般には“血を吸い、獲物を殺す”とされているが、血を吸わない吸血鬼もいる。


——深い奈落の底で、男は蹲っていた。
息が詰まるほどに誰の声もしない空間。
地面は凍てつく氷のように冷たい。
「貴様は、戻りたいのか?」
幾度と繰り返される同じ問い。
ひたひたと近づく骸の群れ。
男は立ち上がり、拳を握る。
それは、怒りではなく、受け入れるという決意だ。
「私は、永劫に許さない。」
何度も聞いた憎悪の声。
嘗ての罪が鎖となって、足に絡む。
「終わりにしてくれ。」
願うように呟いた。
握った拳から力が抜ける。
ひらり、花弁が落ちてきて、男は天を見上げる。
暗闇には明るすぎる程の色。
様々な色の花が足元に咲く。
「もう、いいよ。」
振り向けば、白い髪の聖女が居た。
「いいえ、許さない。」
その声の方を向けば——

そこで、目が覚めた。

現実に戻ったと認識して部屋から出る。
気持ちが悪い。
だが、起床するべき時間に起きなければと身を奮い起こす。
「ウー、」
獣のように唸ると、誰かが近付いた。
「フラン。」
ヴォルフラムという名を愛称で呼ぶ女。
彼女はクラウジアという愛人だ。
「……く、クララ。」
不器用に愛称で呼び返す。
喉が焼け付くように痛い。
ずっと唸っていたということを自覚させた。
同時に、胃の底から込み上げる吐き気を感じた。
「お早う。」
クラウジアはヴォルフラムを抱き締めた。
「大好きだ。」
何の前触れもなく、そう言う。
まるで、当たり前のような表情で笑むわけでもなく言うのだ。
「ウ、ウーッ?」
その言葉に戸惑って、固まってしまった。
「ふふふ、何となく言いたくなっただけだ。」
クラウジアは悪戯に笑う。
「まだ、上手く話せないようだな。」
そう言いながら、少し前の事件を思い返した。