て・そ・ら


 ところが、あたし以外の歌が苦手なクラスのメンバーは色々考えたらしい。つまり、練習から逃げるために。

 翌日。

 そもそも歌うのが嫌だからと早退を企てた男子は担任に見破られて居残りになったし、クラブがあるから~っと出て行こうとした女子には担任の命令書を印籠のように掲げてとっ捕まえ、では参加はするけど声は出さないでおこうと企んだ男子は飯森さんに見破られていた。

「ちょっとー!!寺坂君、それから横内君も!口パクしてんじゃないわよ、ちゃんと判るんですからねー!!」

 腰に手をあててそう威嚇する飯森さんに、クラスメイトからは笑いが起こっていた。

 名指しされた寺坂と横内は、お互いににやにや笑いながら頭を下げている。

「すんません」

「何で判ったんだ、声出してないの?」

 飯森さんは元々大きな目をカッと見開いて、威嚇する。

「そーんなの一発でバレバレよ!ふざけないでちゃんと歌ってよ!あんた達部活中は大声だすんでしょ?それも判ってるんだからね、ちゃーんと聞こえるまで歌ってもらうわよ!」

「勘弁してよ飯森!俺のだみ声なんて、入らない方が歌のためだよ~」

 そう寺坂が言って変顔を披露し、更に皆が笑う。この男子はクラスの中でもお調子者で盛り上げ役だった。きっと何よりも周囲から笑いをとることを優先事項にしているに違いないよね。

 あたしは目立たないように隅っこに並んでいて、皆が笑って寺坂や横内をはやすのをただ見ていた。