て・そ・ら



「あ、うん」

 去っていく彼に、何となく手を振ってしまった。

 ・・・ちょっと、見てないのに何してるの、もう。

 ふう、と息をついて前に向き直る。

 風がさっきよりも優しく感じる。あたしは草原に座って、太陽の光を浴びながらニコニコとしていた。

 わお、久しぶりに喋れた!それに、お礼もいえたし。

「よしよしよし」

 地味にガッツポーズもお腹の前できめておく。

 もしかしたら帰りの電車で会うかもだけど、だって!うーん、これは是非ともそれを狙わないと!多分、またあたしには後輩がいるし、あっちはあっちで一人じゃないかもだけど。

 でも夕日がない電車の中、横内がいる。

 あたしはくふふふと笑って、熱くなってしまった両頬を手で挟みこんだ。

 校舎の向こう、ゆっくりと日が傾いているのがわかる。

 今日は実力テストのあとということで、短縮授業だったから昼すぎから部活時間だったのだ。

 もうすぐここには珊瑚色を通って茜色の時間がくる。

 校舎が真っ黒に見えるくらい、強烈なあのオレンジの時間が。

 風が通って葉っぱを揺らしていった。下のグラウンドではまだ運動部の練習する声、それから女の子たちの歓声とお喋りの声。

 ヒカリちゃんは戻って来なかったけれど、あたしはそこにいて、そのままでようやく写生を始めた。

 対象物は動くけど、運動部の練習風景を描こうって決めて。

 夕日が眩しくて校庭が見れなくなるまで、鉛筆をずっと動かしていたんだった。