て・そ・ら



「あの・・・お守り!」

「え?」

 彼が振り向いた。

 ・・・どひゃー!ちょっと落ち着かないと、あたし。

 冷や汗をダラダラとかきながら、あたしは何とか呼吸をする。そして、声を普通のトーンに戻して言った。

「前に貰ったお守りね、あの、ありがとう。お陰で朝学習乗り切れたから」

 ああ、と呟いて横内が頷いた。ちょっと笑っている。

「結構前の話だな。お礼はあの時も聞いたし、別によかったのに」

「あ、うん。でもその、かなり励みになったから」

 上半身だけ捻って見上げていたのを、全身で彼に向き直る。そう、それで、それからーーーーー

 ・・・笑え、あたし!

 かなり頑張って笑顔になった。色んなとこから勇気をかき集めて。

「ありがとう」

 言えた!

 しかも、ちゃんと笑顔で。あたしはその自分に凄く満足した。

 横内がキャップの下で、きゅっと口元を持ち上げた。一重の瞳が細められて柔らかくて可愛い印象を作る。

「俺の高校受験の時の御守りだったんだ。効いたなら良かった」

 じゃあな、と言いかけて、横内は一瞬口ごもる。だけどすぐにまた口を開いた。

「もしかして、帰りの電車で会うかもだけど・・・またな、佐伯」