て・そ・ら



 並んで両手を広げ、腰を捻りながら走って行く野球部をじっと見ていたら、隣からヒカリちゃんの声が飛んできた。

「佐伯先輩はお目当ての男子とかいないんですか?」

 ぐふっ・・・。いきなりだったので噴出しかけて、必死でそれを飲み込んだ。

「・・・いや、別に。ここは温かいかなって思って選んだだけ」

 そうですかー!と明るい返事が聞こえてほっとする。別に内緒にしなければならないことはないのだけど、ちゃっかり下心があったあたしは恥かしかったのだ。

 それで嘘をついてしまった。

 ちらりと斜め上を見上げる。

 そこは、軟式テニス部が使うコートがあった。

 あたしは軟式テニス部だけが使っているのだと思っていたけど、優実からの情報で、隔週ごとに硬式テニス部と中庭コートと入れ替えしているって知ったのだ。

 そして今日あのコートを使っているのは、男子硬式テニス部と女子硬式テニス部。

 ・・・折角部活に出たんだし、横内の練習が見られるかな、って期待したのだった。

 だけど残念、ここは斜面でコートより下にあるので、背伸びしたってテニスコートの中の練習風景はみることが出来ない。・・・ああ、詰めが甘いわあたし。

 そんなわけで、横内を盗み見ることも出来ないし太陽はあたたかいしで草原に寝転んでしまったのだった。

 学校の周囲に植えてある桜の木の葉っぱが風に揺れている。その下に寝転ぶあたし達の視界は光と影がちらちらと揺れ動く。