『実力テスト開始。これで恐怖の朝学習から解放~!』

 そう一行日記に書いた帰りの電車の中、あたしは久しぶりに顔を見せてくれた夕日の中を、また飛んでいるかのような気持ちで乗っていた。

 誰もいない車両はあたしのものだ。

 わーい、本当に気持ちいいぞう!

 もうニコニコで乗っていた。

 圧倒的な珊瑚色の景色の中、空には大陸のような雲も浮かんでいて、その端から赤や黄色やオレンジやの光がにじみ出ては世界を照らしている。雲の間をぬって地上におちてくる夕焼けの強い紅色が。あたしは電車に揺られながら、その光景から目を離せない。

 真っ赤に滲むお日様。その周りから溢れ出る強烈な色彩が。いくつもの明るい色が重なって輝く大きな雲が。ついぼーっと見惚れてしまうのだ。

 街も人も車も田んぼも全部全部染まってしまう。

 ・・・これを、横内と見ることが出来たらなあ。

 あたしはすごく嬉しいに違いないのに。


 風邪で学校を休んだ金曜日以外の毎朝、ちゃんとあの恐怖の貝原先生主催の朝学習に参加したのだ。

 朝も5時半おきで学校へのろのろと登校して、学校の敷地内の別棟にある図書館の2階、大きな視聴覚室へと向かう。同じように参加が義務付けられてしまった学生達が嫌そうな顔をして歩いてくる中、ポケットの中でお守りを握り締めていた。

 朝早くなのにカーテンを閉め切った視聴覚室の中、数十人の学生を机につかせ、先生は淡々とプリントを配る。ただひたすらそれを解くのだ。毎日毎日同じ問題で、そりゃあ嫌でも解けるようになる。

 お陰であたしの実力テストも、数学2-Bだけは自信がついてしまったほどだった。

 そしてあたしは、あの休んだ金曜日から2週間、横内とは話せてない。