て・そ・ら



 泣きそうだった、と思う。

 だけどもう雨に濡れた状態で、すでにあまりにも可愛くなかった。だからこれ以上の失態をさらしたくなくて、あたしはじゃあねと声を出す。

「・・・クラブ、頑張ってね」

 信号は青に変わっていた。

 あたしはそのまま小走りに渡ってしまって、もう後ろを振り返らなかった。もしかしたら、横内は何か言っていたかもしれない。でもそれどころじゃなかったのだ。

 空一面を覆う曇り空。

 雨は地表から上がった水分が空気中で雲を作り、一定量を超えると地表に降って来るもの。途中でたくさんの埃やゴミを巻き込みながら。

 だからあまり綺麗ではない。授業でそう習った。綺麗ではない、なんていい方は先生はしなかったけど。はっきりと、汚いって言ったのだ。

 だけどあたしは口を開ける。

 飲んでしまったって構うもんか、そんな気分だった。

 破れかぶれよ。だってもう濡れてるし。今更雨が口に入ったって大したことない。そう思ったのだ。

 ・・・くっそう。負けた。

 あたしは、負けたのだ。

 電車は今出たばかりだった。

 あたしは肩で息をして、改札前で鞄からハンドタオルを取り出す。

「まったく、もう・・・」

 公共機関はぬらしてはいけません、そう考えるくらいには、気持ちは落ち着いて元に戻っていた。