て・そ・ら



 あたしは信号待ちの歩道でパッと振り返る。

 幻聴かと思っていた。

 だけど、彼がいた。外周を走る流れから離れて、信号待ちをしているあたしの方へとやってくる。

 キャップの縁からこっちを見ている目とバッチリ視線があってしまった。息をついて、ちょっと苦しそうな顔をしている。

「おいこら!横内ー!女子と話してさぼんなよー!」

 そう叫びながら、男テニのメンバーが走って行く。それに片手を挙げて、ちょっと用事だって叫び返していた。

 あたしは濡れたままでぽかんと彼を見詰める。どうして今目の前にいるのかが判らなくて混乱したのだった。

 だって部活中でしょ?だって、だって――――――――


「傘ないのか?」

 横内がくれた言葉はそれだった。だからあたしは首を横に振る。鞄の中にちゃんと傘はあるの、口には出さなかったけど、そう伝えたくて鞄を上からポンと叩いた。

 それをしっかり見たようで、それから横内は不思議そうな顔して目線を上げた。

 説明しなきゃいけない気になったのだ。きっと心配してくれたのだろうって思ったから。だからあたしは仕方なく、本当は彼と話す時は笑顔が良かったけれど、どうしても出来なかったから仕方なく、そのままの不機嫌な顔で言った。

「美術部で出した絵が秋の作品展で選考漏れして参加賞だったの。今、すごく悔しいから雨に濡れるくらい何でもないの」

 横内の顔は変わらなかった。相変わらずじっとこっちを見たままで、乱れた呼吸を整えている。

「横内君が言うの、判った気分。負けるのって―――――――あたしも、好きじゃない」