て・そ・ら



 朝も昼も夕方も、話すどころか顔を見るのですら難しい。一瞬の盗み見に力を込めるって状態なのだ。

 前よりもハッキリと、自分の気持ちに気付いているのに。

 あ、あたしはあの子が気になるってレベルから、好きだってレベルに上がっちゃったんだなって。

 その男子が今、ほんの少し前を歩いている!

 ・・・あ、ヤバイ。頭に血がのぼりそう。


「・・・ああ、眠い・・・」

 前から声がした。横内は欠伸までしたらしい。傘の中で、手が動くのが後からでも判った。

 ちょっとおかしくなってあたしはつい口を出す。

「授業中寝てたんじゃないの?まだ眠い?」

 さすが眠りん坊だな。

 すると、横内はうーん、と呟くようにいった。

「・・・最近、俺あんまり授業中に寝てないんだけど・・・」

「え?あ、そうなの?」

 席が離れてしまって、しかもあたしの席が前の方なので授業中の彼を見ることができないのだ。でも最近はそういえば、先生方の「横内~!」って声、あまり聞かないかも・・・。へえ、寝てないのか、授業中・・・。

「隣の人起こしてくれてるから?今は誰だっけ、隣の席」

 あたしがそう聞くと、傘の下からちょっとだけ横内の顔が覗く。だけどすぐに前をむいて、返事をした。

「それもあるけど。・・・なんか、寝れなくて」

 ふうん。あたしは歩きながら考える。どうしてかな。あ、そうか。きっと試合も終わって朝錬や昼練が少なくて、疲れてないんだろうなって。