赤面はしなかったと思う。だけど、クラスメイトと話すにしてはいきなり上がったテンションで、あたしはそそくさと彼に向き直った。

「あれ、クラブは?」

 横内は制服を着ていた。帰り道に会うときにはしていた、部活の格好にブレザーをひっかけただけ、というのではなくて、日中にしている学生服姿で。そういえば、今日はラケットケースがないな。

「雨で、休み。ここのとこ雨でコート使えなくて毎日筋トレばっかだったから、たまにはって顧問が休みをくれた」

「あ、そうなんだ」

 あたしは頷く。

 男テニ、対校試合負けたんだって。そう優実から聞いていた。3年生の引退試合はまた別に夏前にあったそうだけど、これで本当に3年はいなくなって2年の天下ね、って言っていたのだ。横内も残念なことがあったってことだよね、だから。ああ、またため息が出そう・・・。

 信号変わったぞ、そう言って横内が歩き出す。

 あたしは隣に並んで歩いていいものかで激しく悩み、ちょっとだけ距離をあけてついていくことにした。だって仕方ないよね?同じ駅から電車にのるんだもんね。

 会話がないままで、雨の中、駅まで歩いていく。歩幅の違いなんかを発見して、勝手に一人でドキドキしていた。

 学校が山の中にあるために人気のない駅までの道。周囲にはポツポツと同じ学校の生徒の姿。皆傘の中で音楽を聞いたり携帯電話を見たりしていて、人のことなんて気にしてない。

 あたしは嬉しいような困るような気持ちでざわざわする胸を懸命に無視する。

 だって、そうでもしないと叫んで躍りだしそうだったのだ。席が離れた上にまたまた4時半に帰るあたしは、横内と顔を合わせることなどなくなってしまっていた。