彼が空からあたしに目をうつして、ちょっと笑った。

「負けるのが好きなやつなんているのか?」

「―――――――」

 あたしは言葉をどこかへなくしてしまった。

「・・・まあ、俺はかなり負けず嫌いだと自分でも思うけどさ」

 横内はキャップに手をやって、じゃあ、と言う。

 それから、ぶつかってごめんなーと言って、ザクザク音を立てて歩いて行ってしまった。

 濡れた絵筆と抱きしめたエプロン。

 あたしはまだしばらくその場で、太陽にあたりながらぼーっと突っ立っていた。

 帰る途中、男子硬式テニス部の団体と校門で出会ってしまった。どうやら試合が終わって一度学校へ戻って来ていたらしい。その途中で、体育倉庫に用があったらしい横内とぶつかったのだと判った。

 昼下がりの太陽の下、顧問の言葉を皆並んで聞いていた。なにやら厳しい言葉を貰っているようで、皆の顔は真剣そのものだった。

 横内の姿も見れたけど、あたしはそのまま通り過ぎる。

 ちょっと気後れしていたのだ。

 傷つけたのかな、と思って。



 ――――――――負けるのが好きなやつなんて、いるのか?



 ・・・・いない、よね。

 あたしは布団の中で何度もゴロゴロと転がっている。眠れなくて、辛くて長い夜だった。