「ほら、こんなんで野球部とかサッカー部とか、よく外で運動できますよね?」
同じく休憩していた優実がクッキーを齧りながら廊下側をついと指差した。
「だから、校舎の影になるグラウンドで練習してるんでしょ?野球部は広さがいるから校庭でしてるけど、なれてんじゃない?サッカー部と野球部と分かれてるから一緒に練習をみたい女の子たちは大変そうだけどねえ」
それから急に身を屈めてきて、あたしの耳元で小声で囁いた。
「・・・テニス部も、大丈夫だよね。だって中庭で夕日はあたんないし」
あたしは黙殺した。
やっぱりこの間、男子硬式テニス部に気になる男の子がいるといってしまったのは間違いだった。あれから何かといっちゃあ優実はテニス部テニス部とあたしの耳元で連呼するのだ。
それにきっと、気がついたはずだ。
あたしの「気になる男子」が、眠りん坊の横内だってこと。
あたしはちっとも反応せずに、黙々と絵筆を動かした。今日も夕方時間の電車乗車は間に合わなかった。だけど仕方がない。この絵を仕上げることが第一だし、それに―――――――・・・。
口元がゆるまないように努力するのが大変だった。
部活にしっかり最後まで出れば、結構な確率で帰りの電車で一緒になれる、と気がついたのだ。
我がクラスの眠りん坊と。
以前に香り袋を返してくれたときのあれは、普通に有り得る話だったらしい。あたしが部活に出て下校時間までいれば、他のクラブ員と帰る時間が被るのは実に当たり前のことなのだ。



