て・そ・ら



 だけどその平凡さを、あたしは別に悲しく思っていないのだった。

 むしろ、妙に目立たない存在である自分を気に入っていたりもする。だって目立たないってことは、確実に怒られたり後ろ指さされたりする可能性も減るってことだもの。

 目立つ人は褒められることも多いけど、けなされることも多い。あたしは、そのどちらもそんなにない学生なのだ。

 17歳って、世間が思うほどにキラキラしてないと思っている。

 だって、学校と家との往復だ。合間にご飯を食べ、友達とお喋りをし、そうする間にも迫り来る将来の選択肢に脅かされて心は穏やかじゃあない。どれだけ寝ても足りないくらい眠りけど、のびるのは身長ばかりで相変わらず棒のような体をしているし。

 とにかく、平々凡々な女の子だって言いたかったのだ。

 だけど。

 あたしは夕暮れの中教室まで歩きながら、ぶつけてひりひりしている唇を人差し指で押さえた。

 ・・・・こんなことも、あるんだな。

 偶然だ。しかも、当たったどころではなく、ぶつかった、というのが正しいほどだから、キスなんかでは勿論ない。だけど母親や父親などとは違う、赤の他人と唇を合わせたのは(ぶつかったんだって判ってるってば)初めてのことだったのだ。

 ・・・痛いだけだったけど。


 オレンジ色に全てが染まる夕方の校舎の中を、あたしはぺたぺたと上靴の音を立てながら歩いて行った。