て・そ・ら



 当てられるのはその日の日付を出席番号にあてはめて、その生徒から順に全員がまわる。だからどの席にいても必ず当たるのだが、どの問題が当たるのかは当日にならないと判らない。

 そんなわけで、貝原先生の数学2-Bを取っている生徒は毎回必死で予習をしてくるのだ。当てられたときにすんなり正解が答えられるように。滞りなく、授業が進むように。

 我がクラスの眠りん坊である横内も、さすがにこの先生の時には突っ伏して眠ることはない。

 まあ寝てるんだけどね、椅子に座ったままで上半身起こして目を閉じてね。

 でも自分の当てられるときにはちゃんと起きて(というか、周囲が起こして)問題をとくのだ。

 それなのに!

 何と、予習したノートを忘れてきたらしい。

「・・・・あ、俺死んだ」

 そういう呟きが隣の席から聞こえてきたから、あたしはぎょっとして振り向いたのだ。

 するとかなり凹んだ様子の横内の姿が。

 片手で目を覆って頭も抱えている。

 そこで、さすがのあたしも声をかけることが出来たってことなのだ。あたしはお腹に力をいれて、声を出した。どうしたの、って。

 そしたら彼は手を顔から離してあたしを見て、調子が悪そうな顔で言ったのだった。

 数Bのノート、家に忘れてきた、って。

 そんなわけで、あたしは彼にノートを持った手を突き出している。

 横内はあたしが差し出したノートをびっくりしたようにちょっと見ていたけれど、すぐに手を伸ばして受け取る。