て・そ・ら



 横内は移動教室らしい。あたしはまだそのままでこの教室を次も使うので、椅子に座ったままで言った。

「ごめんね引き止めて。でも、あの・・・」

 ん?と彼が聞き返す。

 どうしよう、聞くべきか・・・。あたしはしばらく悩んだけれど、とにかく教室を移動しなければならない彼には時間がないはずだ。それに、せっかくここまで話せたから・・・。

 もうちょっとだけ、話したい。

「あの、そんなに眠いなら、夜にもうちょっと早く寝たら?」

 思い切りが必要だった。

 だってあたしには関係ないプライベートな話だし。

 だけど横内はなんとも思わなかったようだ。自分の席から離れて歩きながら、あたしに届くように大きめの声で言った。

「夜も寝てるよ。でも朝錬があってどうしても眠くて。うちの部、試合が近いからハードで」

 チャイムがなる。騒がしいままの教室の自席で、あたしはやっと次の教科の準備を始めた。


 ・・・・テニス部、試合が近いのか。


 授業中、その言葉をずっと頭の中で転がしていた。