て・そ・ら



 落書きに集中してしまっていた。あたしはいきなり緊張したせいでドキドキと煩い鼓動を耳の中に聞きながら、慌ててノートをめくって落書きとは言えない量のイラストを隠した。やばいやばい、完全に没頭してしまっていた。

 横内が授業聞いてて助かった。ほんと、こんなことで目立ちたくないのに。

 ふう、と静かに息を吐く。

 気だるい午後に、こんな緊張はごめんだな。

 遠い教室の窓の向こう側、今日も秋晴れで青々とした空が広がっていた。


 チャイムがなって、やっとホッとする。

 あれから緒方先生はあたし達に目をつけたかで、やたらと後の方の座席の生徒を集中して当てたのだ。だからかなり集中して授業をきくはめになってしまった。肩が凝っちゃったよ、もう。

「ああ、やっと終わった・・・」

 隣からぼそっと呟きが聞こえる。横内も同じように思っていたらしい、と思ってちょっと笑えた。

 移動教室で教室の中はざわめいている。だからあたしはその雑音に力を借りて、思い切って隣を振り返った。

「横内、君」

「ん?」

 ダラダラと教科書を出し入れしていた彼が顔を上げる。

「本当に助かったよ、さっき、ありがとう。もしかして物理得意なの?眠りもせず、答えまですぐに言ってたから」

 何てことない雑談よ、相手はただの隣の席のクラスメイト。そう自分に言い聞かせながら聞いてみる。

 すると横内は、ちょっとだけ笑ってから小声で言った。

「・・・いや、たまたま。眠れなくて、聞いてたとこが当たってたから」