て・そ・ら



 隣から小さな声がした。あたしが振り向こうとすると、またカタンと机に振動が走る。え、ええ?ええと、答えってことかな?

「お、オームの法則です!」

 とりあえず言ってみることにした。間違えるほうが何も答えないことよりも評価するのが緒方先生なのだ。もう額には汗びっしょりな状態で、あたしは少しだけ腰を浮かせた状態でそう答えた。

 先生は軽く頷いて、指であたしを指す。

「そうだな、正解。一番後ろでも集中しなさい。・・・まあ隣に引きずられるのは判るけどな」

 横内を巻き込んだ嫌味に、あははは、と教室に笑いが満ちた。それと同時に隣から、さっきと同じ小声がした。

「せんせー、今日は起きてますー」

「さっきまで寝てただろ、目立つんだよ、横内は。ほら、他のものも起きなさい。まったく、45分くらい耐えろよお前らはー」

 ぶつぶつと小言を言いながら先生が黒板に向き直る。あたしはゆっくりと隣を振り返った。

 横内は、確かに起きていた。眠そうな目を擦って、珍しく上半身をおこして椅子にもたれかかっている。

 ・・・さっき、答え教えてくれたんだよね。ってことは起きてたんだな、本当に。それに、机に感じたあの振動、きっと横内が足を伸ばして蹴ってくれたのだ。あたしが気がつくように。

 彼の足は長々と机と机の間の通路に放り出されている。やっぱり、蹴ってくれたんだな。

「あの・・・ありがと」

 あたしが小声でそう言うと、横内はちらっと目を向けた。それから小さく頷いた。