て・そ・ら



「これ」

「え?」

「これ、佐伯さんのじゃない?」

 横内が羽織っただけで前のボタンをとめていないブレザーのポケットから、何かを取り出した。

 それは小さな赤い袋。

 見覚えがある。―――――――あ、あたしのだ。

「あ!」

 あたしはぱっと両手を出してそれを受け取る。これはいつも制服の右ポケットに入れている香り袋なのだ。従妹のお姉ちゃんから貰ったもので、いつでも油くさいあたしに押し付けてきたものだった。

 あんた臭いから、これもってなさい!

 お姉ちゃんは険しい顔でそう言ってた。それが今年の春先で、それからポケットに入れっぱなしにしてたはず。

 顔を上げると、ちょっとだけ背が高い横内とバッチリ目があった。

「これ、あたしの香り袋。ええと、どこで・・・?」

「・・・前、ぶつかった時だと思う」

「え?落としてたんだ、あたし?」

 ゆっくりと視線をそらして、横内は窓の外を見ながらぼそぼそと言う。

「保健室から戻るとき、廊下に落ちてた。・・・ぶつかった時に落としたのかな、と思って。佐伯さんのかわからなくて、とりあえずもってた」

 そうなのか。あの時に。