て・そ・ら



「佐伯先輩、また明日~」

 3つ目の駅で話し相手の後輩が降りてしまう。大好きな夕方の時間であればともかく、既に日が落ちてしまったあとでは話相手のいない通学電車は退屈以外の何者でもないのだ。

 今日は時間が時間でほどほどに込んだ電車の中、あたしはすっかり暗くなってしまった空を見上げた。

 ・・・この色は、群青―――――――――――


「あ、佐伯さん」


 は?

 電車の中であたしの名前を呼ぶ声がして、振り返った。そしたら、まさかの人間が目の前にたっていた。

「――――――――よ、横内、君」

 咄嗟だったけど、ちゃんと君をつけたあたしは素晴らしい。ちょっと自分でそう褒めてしまった。いつも心の中で呼び捨てにしている人物が急に現れたのに、ついうっかり呼び捨てにしなかったなんてマジで素晴らしい。

 微妙な笑顔で固まってしまったあたしの目の前、我がクラスの眠りん坊がいた。

 横内は学校指定の学生鞄と、大きなラケットが突き出たスポーツバックをもっていた。適当に着替えました、という感じに羽織っただけの制服と、大きな荷物。口の横にはもうバンドエイドははってなかったけど、うっすらと切れたあとが見える。珍しく両目をハッキリと開けて、彼はあたしを見ていた。

 あたしの頭には巨大なクエスチョンマークが浮かんで見えたはずだ。だっていつも隣の席で寝ている横内が、なぜ同じ電車の同じ車両に?いつの間にそこに?どうして、何故にあたしはどうして気がつかなかったの?

 心の中で騒がしくそう思ったけど、ほどほどの込み具合である電車の中で、ヤツはちょっと照れくさそうな顔をして一歩こっちに近づいた。