て・そ・ら



 本当に珍しく、午後4時半の女(つまり、あたしだ)がまだ部室にいるってことで、全員で一斉になった下校時には、散々部員にからかわれてしまった。

「七海、展覧会に気合入ってるんだね~」

 麻衣がそう言って肩を叩くと、後から優実が何故か胸をはっていった。

「当然でしょ。七海は去年の展覧会、惜しくも佳作だったもん!うちの学校の美術部から県代表になったのは七海とかなり昔の先輩だけなんでしょ?今年は優秀賞狙ってるんだよね!」

 そう、確かにあたしの去年の油絵作品は、県大会へ出ることが出来たのだった。ただし、それは油絵部門が高校では少なかったからだという現実つき。ちなみに油絵部門で県まで行ったのは先輩が一人とあたしだけで間違いはないが、彫刻部門や水彩画や切り絵などでは県の代表どころか東日本の代表になった人もいるんだからさほど凄いことではない。

 あたしはだから、優実に感謝しつつもちょっと笑っただけだった。

 出すなら、勿論優秀賞を貰いたい。

 人の為に絵を描くことなどあまりないが、作品展に出すということは、批評され、世間的な評価を受けるということでもある。だから、そりゃあ凄いねって言われたいし、それを自分でも喜びたい。

「じゃあ~ね~」

 バス通学者も多いので、数人が信号で分かれて行く。

 あたしは後輩と二人で駅へと向かう。始発駅でもある山の上の駅から我が家までは、約40分ほど。駅前でアイスを買って、食べながら改札を通った。