て・そ・ら



 その独り言の勢いに恐れをなしたあたしは、ここまできて返答を誤魔化した。だって横内だなんてバレた瞬間、優実はバカデカイ声で叫びそうなのだ。

 ええーっ!!よーこーうーちー!!・・・とかって。ああ、すごく想像出来る。そしてその瞬間、あの真下に整列する男子硬式テニス部の面々が一斉に上を見上げるに違いない。

 そんなことになったら恥かしいを通り越して泣きたくなる。

「ご想像にお任せします・・・」

 じゃああたし絵の続きを・・・。そう言いかけて背中を向けたあたしに、優実はガンガン言葉を飛ばした。

「あ、もしかして横内じゃないっ!?あいつも七海と同じクラスでしょ?うーん・・・でもないか、あいつは眠りん坊だもんね~!2-2の眠りん坊、横内。あははは。会話のチャンスがなさそう」

 ―――――――――眠りん坊?・・・・へえ、そう呼ばれてるんだ。

 一瞬止まりそうになってしまったけど、何とか自然な速度で歩き去ることに成功した。

 ふう、やれやれ!危ない危ない。

 ついうっかり漏らしてしまったけど、優実に知られるということは、きっと明日には美術部の全員が知っているってこととイコールだと思う。

 あたしは自席について、いつの間にかかいていた冷や汗を腕で拭った。

 もうすぐで、4時半。あたしの下校時刻・・・。だけど、今日は珍しく諦めよう。だってまだ、紅葉の全形も描けてない。

 筆を握る。それからカンバスを注視した。

 あたしには今、やるべきことがある。