て・そ・ら



 彼女は菊池優実という。隣の3組の学級委員をしていて、成績でも優秀だし、外見を作ることにかけても優秀なのだ。

 学校に来るのに簡単な化粧をしている、と1年生の時に言って周囲を驚かせ(美術部員は大体があたしと同類の女子ばかりなので)、実演してみせてくれたのだ。

 絵を描くのと一緒でしょ、そう言っていた。部室で、鏡を覗き込んで透明マスカラを睫毛に塗りたくりながら。

 人物画を描くのと一緒よ、紙の上じゃあなくて、自分の顔に色を塗るだけなんだから。これでなんてことないあたしの顔が、結構いいじゃんって顔になるんだもの。

 そういって、実に器用に自分の顔を華やかにしていた。白くて細い指先がくるくると動いていた。

 コンシーラーとパウダー、それから眉墨と透明マスカラにリップグロス。これで生活指導の先生に目をつけられない程度で、自分の顔を3ランクくらいレベルアップさせられるらしい。

 その話を聞いたとき、周りの美術部で「たらららったたーん♪」などと口ずさんでゲーム仕様にしたものだ。優実は、レベルが1、上がった、とか言って。先輩方の中には熱心に質問している人もいたけど、あたしにとっては必要なさそうな技術だったのだ。

 あたしはあはははと乾いた笑いを漏らす。

「ねえ、そもそもさ、男子に興味をもつって、どうやってやるの?」

「は?」

 優実が変な顔をしてあたしを見た。

「だって、男の子って汗臭いし子供っぽいし、何考えてるか判らない」